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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)125号 判決 1997年5月21日

東京都新宿区西新宿1丁目26番2号

原告

コニカ株式会社

代表者代表取締役

米山高範

訴訟代理人弁理士

野田義親

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官荒井寿光

指定代理人

小菅一弘

櫻井義宏

幸長保次郎

小川宗一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成4年審判第17644号事件について、平成6年3月30日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和59年2月2日、名称を「ズームレンズ鏡胴」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(特願昭59-16008号)をしたが、平成4年7月22日に拒絶査定を受けたので、同年9月24日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成4年審判第17644号事件として審理したうえ、平成6年3月30日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年4月27日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

ズーミングによって鏡胴の全長が変化するズームレンズ鏡胴において、ズーミング用カム溝の少なくとも一端を延長し、該延長部によってズーミング或いはフォーカシング範囲をこえて鏡胴全長を短縮することを特徴とするズームレンズ鏡胴

3  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、周知のもの〔例えば、実願昭56-134249号(実開昭58-40735号)の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム、以下「周知例」といい、そこに記載された考案を「周知考案」という。〕及び特開昭50-34531号公報(以下「引用例」といい、そこに記載された発明を「引用例発明」という。)に記載されたものから当業者が容易に発明することができたものであると認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることはできないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、周知考案の認定、引用例の記載事項の認定、本願発明と周知考案との一致点及び相違点の認定、レンズの移動をカム溝を用いて行うことが慣用手段であることは認め、その余は争う。

審決は、相違点についての判断を誤り(取消事由1)、本願発明の有する顕著な作用効果を看過した(取消事由2)結果、本願発明が容易に発明することができたと誤って判断したものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(相違点の判断の誤り)

審決は、レンズの移動手段としてのカム溝が慣用手段であることを理由に、フォーカシング用ヘリコイドねじを延長して鏡胴全長の短縮を行うことが記載された引用例に、ズーミング用カム溝を延長して短縮を行うことも記載されていると認定する(審決書4頁3~10行)。

しかしながら、フォーカシング用ヘリコイドねじとズーミング用カム溝とでは、その目的及び効果に格別の差異があり、カム溝が慣用手段であることを理由として、両者が置換可能とすることはできない。

フォーカシングは、像のピントを合わせる作用をなすもので、高精度を最も重要な効果とするため、ヘリコイドねじ、すなわち、操作環の回転に対してレンズを一定の割合で光軸方向に移動させるレンズ移動手段が適している。この場合、ヘリコイドねじは高精度を保つために、操作環の回転に対してあまり大きな光軸方向のレンズ変位を与えないようにされる。これに対して、ズーミングは、像の大きさを変化させる作用をなすもので、レンズを速く所望の倍率に設定できることを重要な効果とするため、ズーミング時にレンズが光軸方向に移動する量はフォーカシング時の数倍から数十倍くらいであり、大きく動かすカム溝が適している。

したがって、通常のズームレンズ鏡胴において、ヘリコイドねじはフォーカシング用として、カム溝はズーミング用として、それぞれ使用されており、両者は全く異なる技術であるから、審決の、引用例にはカム溝の少なくとも一端を延長し、延長部によってズーミングあるいはフォーカシング範囲を超えて鏡胴全長を短縮する鏡胴が記載されているとの認定は誤りであり、この誤った認定を前提とした審決の相違点についての判断も誤りである。

さらに、ヘリコイドねじはヘリコイド筒の一端側からねじを切って製造され、必然的にレンズの移動に関係のないヘリコイドねじの延長部分を備えるが、カム溝はカム筒の一部分だけに設けられ、本来的に延長部分を有しないから、新たに特別の延長部分を設けてレンズ鏡胴の短縮に利用するという本願発明の構成を想到することは、当業者が容易になし得るものではない。したがって、この点からも、審決の相違点についての判断は誤りである。

2  取消事由2(作用効果の看過)

ヘリコイドねじは、操作環の回転に対してレンズを一定の割合で光軸方向に移動させるレンズ移動手段であるが、カム溝は、操作環の回転に対して光軸方向の各位置でレンズの光軸方向の移動割合を任意に変えることができるレンズ移動手段である。また、ヘリコイドねじの場合には複数のレンズの各々を独立して移動させることができないが、カム溝の場合は、一個のカム筒で複数のレンズの各々に対応して設けられたカム溝の形状を各別に変えることによって、各レンズを独立して移動させることができる。

そして、引用例発明は、フォーカシング用ヘリコイドねじの一端を延長するものであるので、ヘリコイドねじによる移動ピッチは変更できず、フォーカシング時の移動ピッチと短縮時の移動ピッチとは同じである。また、フォーカシングに伴うレンズ群の移動は、一般に数ミリからせいぜい10ミリくらいであり、非常に細かい移動を必要とするので、フォーカシング時の移動ピッチは非常に小さい。すなわち、フォーカシング時の移動ピッチと短縮時の移動ピッチとは共に小さいため、鏡胴を短縮するためには大きな回転角が必要であり、ヘリコイドねじによっては効率よく鏡胴を短縮できない。

これに対して、本願発明は、ズーミング用カム溝の一端を延長するものであるので、カム溝による移動ピッチは自由に変えることができる。換言すると、ズーミング時の移動ピッチと短縮時の移動ピッチを変えることができるので、短縮時の移動ピッチを大きくして効率よく鏡胴を短縮することができる。さらに、一般にズーミングに伴うレンズ群の移動は、フォーカシング時の数倍から数十倍くらいあるので、大きく動かすズーミング用カム溝の一端を延長することは、鏡胴の短縮に極めて有効である。

このように、本願発明はズーミング用カム溝の一端を延長したので、自由度をもってレンズを移動させることができ、フォーカシング用ヘリコイドねじの一端を延長した引用例発明と比較して、効率よく鏡胴を短縮できるという顕著な効果を奏するものである。

さらに、本願発明においては、カム溝を使用して前方のレンズの前端から後方のレンズの後端までの長さを変えて短縮することができるため、最密状態にまで各レンズを近接させることが可能になり、鏡胴全長を極限まで短縮することができる。これに対し、引用例発明では、ヘリコイドねじのレンズ移動機能特有の限度があって、鏡胴全長を大きく短縮することができない。

以上のとおり、本願発明の作用効果は、カム溝を延長することによって初めて得られるものであり、周知考案及び引用例発明から当業者が予測できるものではない。にもかかわらず、審決は、その作用効果を看過して、「本願発明の構成によってもたらされる効果も前期周知のもの及び引用例に記載されたものから当業者であれば予測することができる程度のものであって格別のものとはいえない。」(審決書4頁15~19行)と誤って判断した。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

引用例には、ヘリコイドねじの無限遠位置から更に、延長部によってズーミングあるいはフォーカシング範囲を超えて鏡胴全長を格納する構成が記載されている。

ところで、レンズの移動をカム溝を用いて行うことは、本願出願前、慣用手段であり、本願発明の要旨によれば、本願発明がカム溝の延長部に求めている役割は「鏡胴全長を短縮する」ことであり、レンズ鏡胴を短縮する方向に作動させること、すなわち、レンズをその光軸方向に移動させることに関しては、カム溝もヘリコイドねじも同じである。しかも、後記2のとおり、カム溝とヘリコイドねじは、レンズ鏡胴をズーミングあるいはフォーカシング範囲を超えて短縮させる効果を有することでも、同等の技術といえる。

また、引用例発明の、ヘリコイドねじを「無限遠位置から更に延長すること」が、本願発明のカム溝の「少なくとも一端を延長すること」に相当し、引用例発明における鏡胴全長の「格納」が、本願発明の「短縮」に相当することも明らかである。

以上によれば、審決の、引用例には、カム溝の少なくとも一端を延長し、延長部によってズーミングあるいはフォーカシング範囲を超えて鏡胴全長を短縮する鏡胴が、記載されているとの認定(審決書4頁4~10行)に誤りはない。

なお、原告が主張するカム溝の延長部とは、すでに作成し終わっている溝を更に延長するものではなく、カム溝をズーミングあるいはフォーカシング範囲を超えた部分まで形成したものにすぎない。カム溝も必要とされる長さが決まっていれば、単純にその長さだけカム溝を形成すればよいのであって、そうすることに何の工夫も必要ないものである。

そうすると、前記慣用手段を考慮して引用例発明の技術を周知考案に適用すれば本願発明に想到することは、当業者にとって容易であるから、審決の相違点についての判断(審決書4頁11~14行)に誤りはない。

2  取消事由2について

前記本願発明の要旨によれば、ズーミング用カム溝の構成については「少なくとも一端を延長」し、「該延長部によってズーミング或いはフォーカシング範囲をこえて鏡胴全長を短縮する」と規定されているだけであり、原告が本願発明特有の効果として主張する、カム溝による移動ピッチをズーミング時と短縮時で変えること、カム溝によるレンズ群の移動量が大きく設定されていることなど、カム溝による移動ピッチに関しては何ら規定されていない。

したがって、本願発明における「カム溝」の奏する効果は「鏡胴全長を短縮する」ことであり、このような作用効果は、フォーカシング用ヘリコイドねじもズーミング用カム溝も同じである。

仮に原告主張のような作用効果がズーミング用カム溝にあるとしても、そのような効果が当業者にとって予測できない顕著な効果であるといえないことは明らかである。

原告は、本願発明においては、カム溝を使用して前方のレンズの前端から後方のレンズの後端までの長さを変えて短縮することができるため、最密状態にまで各レンズを近接させることが可能になり、鏡胴全長を極限まで短縮することができると主張するが、「前方のレンズの前端から後方のレンズの後端までの長さを変え」るという構成は、本願発明の要旨にはなく、各レンズを近接させることにより「最密状態にまで各レンズを近接させる」という作用効果は、本願の明細書のどこにも記載されていないから、上記主張は失当である。

以上のとおり、審決の、「慣用手段を考慮すれば、本願発明の構成によってもたらされる効果も前期周知のもの及び引用例に記載されたものから当業者であれば予測することができる程度のものであって格別のものとはいえない。」(審決書4頁15~19行)との判断に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(相違点の判断の誤り)について

引用例に、ヘリコイドねじの無限遠位置から更に、延長部によってフォーカシング範囲を超えて鏡胴全長を格納する構成が記載されていること、レンズの移動手段としてのカム溝が慣用手段であることは、いずれも当事者間に争いがない。

ところで、特開昭57-37306号公報(乙第4号証)には、「従来、ズームレンズ鏡筒においては、ズーミングのためのレンズ群の移動は、シングルヘリコイドやカムと摺動筒によるのが最も普通である。」(同号証1頁左下欄16~19行)、「近距離の物体に焦点を合せるため、フオーカスリング6を矢印の方向に廻軸させると、フオーカス補正カム6-1は伝達ピン5-2を伴つて点線のように廻転し、フオーカス制御リング5、従つてフオーカスカム5-1も点線のように移動する。・・・つまり、フオーカスリング6の廻動によつて第1群レンズと第2群レンズは一体となつて前進して焦点合せが行なわれる」(同2頁右下欄10行~同3頁左上欄3行)と、特開昭57-37308号公報(乙第5号証)には、「ズーミングは、・・・ズームリング7を廻転させることによつて行われる。ズームリング7の回転によりヘリコイド雌2はヘリコイドネジ1-1、2-1により廻転しながら前進し、これに伴いカム溝2-4、2-5も前進しながら回転する。・・・ヘリコイド雌2の廻転により、回動が許されないヘリコイド雄3はヘリコイドネジ2-2、3-1によつてフオーカス摺動胴4、フオーカス制御リング5を伴つて直進し、第1群レンズも前進する。」(同号証3頁右上欄7~20行)と、特開昭54-5424号公報(乙第6号証)には、「ズーム操作をするため、ズームリング102を回動操作すると・・・回動不能のヘリコイド筒118は、ヘリコイド117のリードに従つて、光軸方向に前進又は後退をし、ヘリコイド筒118にヘリコイド113を以て一体的に結合する第1移動レンズ枠107も共に前進又は後退してズーミングを行なうものである。」(同号証13欄2~11行)と、実公昭44-28477号公報(乙第7号証)には、「ズームレンズ18、18’のある鏡筒16は手動用リング19またはこれに接した歯車15を回転する時、これと関係したヘリコイドネジ・・・などの作用で鏡筒16がレンズ17に近ずいたり遠ざかつたりして移動するようにできている。」(同号証1欄37~2欄3行)と、特開昭55-120007号公報(乙第8号証)には、「従来、レンズ鏡胴内に配置した光学系又は絞りユニツト等をピント合わせ操作・ズーミング操作・露出値設定又は露出制動動作に基づいて光軸方向に前後に移動する場合複数の筒状部材にヘリコイドネジを形成し一重ヘリコイド又はダブルヘリコイド結合によつて回動移動又は直道移動を行なわしめる構成を採用している。」(同号証3欄11行~4欄1行)と各記載されている。

これらの記載によれば、従来のレンズ鏡胴において、ヘリコイドねじは、ズーミング用のレンズ移動・伸縮手段として一般的に使用されてきたものであり、また、カム溝がフォーカシング用に使用されることもあるものと認められる。このことと、レンズの移動手段としてのカム溝が慣用手段であることを考慮すれば、レンズ鏡胴において、レンズをその光軸方向に移動させることに関しては、カム溝もヘリコイドねじも同等の作用効果を有するものであり、ヘリコイドねじはフォーカシング用及びズーミング用のレンズ移動の双方に使用され、カム溝も双方の用途に使用されていたものと認められ、したがって、ヘリコイドねじはフォーカシング用としてのみ、カム溝はズーミング用としてのみ使用されており、両者は全く異なる作用効果を有する技術であるとする原告の主張は、採用できない。

そうすると、引用例に記載された、ヘリコイドねじを無限遠位置から更に延長し、その延長部によってズーミングあるいはフォーカシング範囲を超えて鏡胴全長を格納するすなわち短縮する構成のうち、ヘリコイドねじを鏡胴全長の短縮の観点からは同等の技術であるカム溝に置換することは、当業者にとって容易であるということができる。また、カム溝に延長部を設けることは、その少なくとも一端を延長することであり、このことがヘリコイドねじに延長部分を設ける場合と比較して、格別の困難性を有するものとも認められないし、そのように置換された構成を、鏡胴の全長が変化するズームレンズ鏡胴である周知考案に採用することも、当業者にとって容易に想到できることと認められる。

以上によれば、審決の、慣用手段を考慮しつつ引用例発明の技術を周知考案に適用することにより、本願発明のような構成を想到することは、当業者にとって容易になしえたものとする判断(審決書4頁11~14行)に、誤りはない。

2  取消事由2(作用効果の看過)について

原告は、本願発明の有する格別の効果として、ズーミング用カム溝の一端を延長したので、ヘリコイドねじと異なり自由度をもってレンズを移動させることができ、効率よく鏡胴を短縮できるとともに、カム溝により前方のレンズの前端から後方のレンズの後端までの長さを変えて短縮することができるため、最密状態にまで各レンズを近接させることが可能になり、鏡胴全長を極限まで短縮することができる旨主張する。

ところで、本願明細書(甲第4号証)には、発明の目的として「この発明は、特にそのために部品点数を増すことなく、携帯時には通常の標準レンズ並の大きさにしうるズームレンズを得ようとするものである。」(同号証明細書2頁15~18行)と記載され、発明の効果として「この発明は上記の構成を有するので、ズーミングの1端から、ズーム操作環を更に回動することでズームレンズの全長を通常の標準レンズの全長程度に迄短縮出来、携帯に極めて便利である。しかも、ズームカム溝を延長するだけで、何ら部品を増す必要もなく、コストアツプを招く恐れもない。」(同5頁13~19行)と記載されている。

これらの記載及び前示本願発明の要旨によれば、本願発明の目的及び効果は、短縮して携帯時には通常の標準レンズ程度の大きさとなるズームレンズを、部品点数を増すことなく提供しようとするものであることが明らかである。そして、本願発明がカム溝を延長させる構成を採用したことにより、自由度をもってレンズを移動させたり、レンズを各別に短縮させて最密状態にまで各レンズを近接させることができる旨については、本願明細書には全く記載がなく、本願発明の要旨に基づくものとは認められないから、本願発明がこれらの効果を有することを前提とする原告の主張は、それ自体失当である。

しかも、原告の主張する上記効果は、いずれもレンズの短縮にカム溝を用いたことによるものに過ぎないと認められるから、引用例発明においてカム溝を延長するという構成を採用して周知考案に適用したことによる効果の範囲内のものであり、格別のものとは認められない。

したがって、審決の、「本願発明の構成によってもたらされる効果も前期周知のもの及び引用例に記載されたものから当業者であれば予測することができる程度のものであって格別のものとはいえない。」(審決書4頁15~19行)との判断に、誤りはない。

3  以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、審決の認定判断は正当であって、他に審決を取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成4年審判第17644号

審決

東京都新宿区西新宿1丁目26番2号

請求人 コニカ株式会社

東京都港区西新橋1-18-14 小里会館5階502号 佐藤国際特許事務所

代理人弁理士 佐藤文男

東京都港区西新橋1丁目18番14号 小里会館5階502号 佐藤国際特許事務所

代理人弁理士 佐籐房子

昭和59年特許願第16008号「ズームレンズ鏡胴」拒絶査定に対する審判事件(昭和60年8月24日出願公開、特開昭60-162216)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない.

理由

1、 手続の経緯・本願発明の要旨

本願は、昭和59年2月2日の出願であって、平成4年10月22日付けで手続補正寮なされたところ、当審において平成5年10月1日付けでこの手続補正の却下の決定がなされ、この決定が確定したものである。

そして、その発明の要旨は、出願当初の明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲に記載された次のとおりのものであると認める。

「ズーミングによって鏡胴の全長が変化するズームレンズ鏡胴において、ズーミング用カム溝の少なくとも一端を延長し、該延長部によってズーミング或いはフォーカシング範囲をこえて鏡胴全長を短縮することを特徴とするズームレンズ鏡胴」

2、 引用例

ところで、ズーミングによって鏡胴の全長が変化するズームレンズ鏡胴は、本願出願前周知である(例えば、実願昭56-134249号(実開昭58-40735号公報参照)の願書に最初に添付した明細書並びに図面の内容を撮影したマイクロフイルム(昭和58年3月17日特許庁発行)等を参照。)。

また、原査定の拒絶の理由に引用した特開昭50-34531号公報(昭和50年4月2日出願公開。以下、引用例という。)には、ヘリコイド筒と螺合する、レンズ枠をフォーカスリングの操作により、ヘリコイドねじに沿って直進状に伸縮可能となし、レンズ枠をヘリコイドねじに沿って無限遠位置から更に、鏡胴後端部へ向かって格納し得るようにしたレンズ鏡胴が記載されている。

3、 対比

そこで、本願発明と前記周知のものとを対比すると、両者は、ズーミングによって鏡胴の全長が変化するズームレンズ鏡胴である点で一致し、本願発明が、ズーミング用カム溝の少なくとも一端を延長し、該延長部によってズーミング或いはフォーカシング範囲をこえて鏡胴全長を短縮するように構成されているのに対し、前記周知のものにおいては特段の構成を有していない点で相違する。

4、 当審における判断

上記相違点について検討する。

一般に、レンズの移動をカム溝を用いて行うことは、慣用手段であることを考慮すれば、カム溝(引用例における「ヘリコイドねじ」に相当。以下括弧内の記載は、引用例のものをさす。)の少なくとも一端を延長(無限遠位置から更に)し、延長部によってズーミング或いはフォーカシング範囲をこえて鏡胴全長を短縮(格納)する鏡胴が、引用例に記載されているように本願出願前公知技術であるから、前記周知のものにおいて、慣用手段を考慮しつつ前記公知技術を採用することによって、本願発明のように構成することは、当業者において容易になし得たものであると認める

そして、慣用手段を考慮すれば、本願発明の構成によってもたらされる効果も前記周知のもの及び引用例に記載されたものから当業者であれば予測することができる程度のものであって格別のものとはいえない。

5、 むすび

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